「半農半Xな暮らしを目指す」
さわやかな笑顔を見せる佐藤茂徳・恭子さん夫妻。
奥会津三島町のえごま畑で、「半農半X」な暮らしについてお話を伺いました。
2008年のリーマンショック。
当時、半導体の仕事をしていた佐藤さん。
大きな経済ショックに巻き込まれ、派遣切りに遭う。
農家育ちの佐藤さんは、会津に帰り、自らの農業を模索し始めた。
最初に目指した方向は、有機農業。
試行錯誤をしているとき、さらに2011年の東日本大震災・原発事故に遭う。
福島産の作物は、風評による買い控えが起き、また大きな試練に直面した。
そのとき、絶望の淵から一縷の望みを見つけたのは、「養蜂の仕事」の求人チラシだった。
給与を得て暮らしながら、技術を身につけ、仕事も充実させていく。
必然的にそんな時代を過ごしてきた。
半農としての養蜂
養蜂の仕事は、最前線で働くハチが、ストレスなく働ける環境を整えることが仕事の根幹。
化学肥料や農薬を使わない有機農業を志していただけに、自然環境にない人為的な影響を、ハチから遠ざける環境づくりにはもともと持っていた知識が大きく役立ち、「養蜂家」としての独立へと道筋がついた。
会津は、盆地と奥会津の山間部を併せ持つ地域。
土地の高低差に注目すると、同じ地域で花の咲く季節が異なる環境があることに気づく。
盆地では、春に菜の花やクローバーなどの花が開き、ハチが蜜を集めて活動する。
奥会津では、トチ・キハダ・栗などが遅い春に花をつける。
同じハチミツでも、ハチが集めてきた蜜の味により出来上がりが異なるハチミツの提供につながった。
ハチが暮らす環境が複数あると、ハチに多大な影響がある近隣農地の農薬散布が予定されるときに、ハチを避難させる環境にも役立つ。
ハチにとって死活問題となるネオニコチノイド系農薬から守るためだ。
ネオニコチノイド系農薬は、害虫の防除を目的に用いられるもの。
田んぼでは、米に小さな茶色い点をつけてしまうカメムシの防除に使う。
食用には何の害もないが、米の等級検査での判定が下がってしまう。
自らがつくる米の田んぼでは、カメムシにより茶色い点がついたコメ粒を許容し、ていねいに説明したうえで、理解者に受け渡す。
問題のある環境からハチを避難させるのは、ハチの活動が鈍る真夜中。
「誰もいない真夜中の山にハチを避難させるのは、クマに襲われそうで怖い」
と笑い飛ばすが、ハチの暮らしにもていねいに接する佐藤さんの人柄が見える。
ハチミツをたくさん採るために、ハチに無理をさせるようなことはしない。
まわりの蜜を持つ花の環境に適した数のハチを飼い、持続可能な養蜂を目指す。
店の名前にした「百年養蜂」は、そんな願いが込められている。
半Xとしてのエゴマ
しかし、外的な要因により事業に予期しない影響が起きることは、リーマンショック、原発事故で嫌なほど経験してきた。
三島町の農業法人「桐の里産業株式会社」では、山間部の農業を守るため、個人では難しい耕作放棄地の再開墾や機械化による効率化を推進させている。
佐藤さん夫妻は、この会社のプレーヤとして働く。
もともとこの地域で生産されていた”えごま”は、耕作放棄や高齢化で縮小していたが、種は奥会津で受け継がれ現在も存在。
“えごま”という作物は、鳥獣被害に遭うことが少なく、機械化が可能で、山間部での農業に新たな可能性を持つ。
「これなら、山間部の農地を有効に活用し、地域のためにもなる」
「地域が持つ農業ノウハウも継承できるし、地域の人々と”喜び”と”協力”を分かち合える」
「私たちも”やりがい”を感じられる」
みんなにとっての「三方得の関係」を成り立たせた。
えごま油はオメガ3脂肪酸が多く含まれ、市販のサラダ油はオメガ6脂肪酸が多く含まれるという。
現代人の暮らしは、オメガ6脂肪酸に偏りすぎる傾向がある。
オメガ3脂肪酸をとることは、カラダを健康に保つ作用を及ぼす。
「毎日、少しづつ”えごま油”を食べ、カラダのバランスをよくしていただきたい」
と、佐藤さんは話す。
畑から収穫した”えごま”は、搾油機で搾られる。
その前段階で、きれにに洗浄し乾燥させる工程を繰り返し、不純物のない透き通った美しい「えごま油」に仕上げるていねいな仕事は、佐藤さんたちの堅実な生き方を見ているようだ。
「あいづ朝市」では、ハチミツ・えごま油のほか、季節の野菜なども出品されることがある。
佐藤さんの「半農半X」から得られる成果品が並ぶ。
「ひとつの会津での生き方」に興味ある方は、ぜひ「あいづ朝市」の会場で声をおかけくださいませ。