「地域資源を有効に使う『農』を会津でも」
これは、喜多方市山都町と西会津町の畑で農業をしている小川光さんが、地域に対して発した言葉だ。
取材班は、メロンとミニトマトを中心に育てている農業ハウスを訪れ、お話をうかがった。
東京練馬生まれの小川さんは、農産地「練馬」で離農した農家の畑を使い、作物を自分でつくってみた中学生時代の経験を持つ、根っからの農業人生を歩む方。
大学では農業生物学を学び、その後、農業試験場の研究員をしていた小川さんは、農業のプロフェッショナル。
学生時代、第二外国語としてロシア語を学んだことをきっかけに、ロシア語圏の中央アジアの国々に対する農業支援も経験してきた。
カザフスタンやトルクメニスタンなどの国々は、水を得るのが難しく、乾燥した大地を持つ農地が多いと言う。
「そういう場所に適した農業とはどんなものなのか?」
この課題に対する研究成果は、会津での農業にも大きく役立ち、日々実践しながら作物を育てる。
喜多方市山都町の山間部にある畑は、水を引くことに対する大きな苦労がある場所だからか、かつて耕作放棄地となった場所。
水の少ない場所での農業ノウハウがとても役に立つ環境だ。
畑には、自らで交配し開発した品種のトマトや、トルクメニスタンから持ち帰った種によるメロンなど、水の少ない環境で育てるここにしかないものの生産が行われている。
小川さんの農業には、4本の柱がある。
1.穴肥(あなごえ)
穴肥とは、穴を掘り、桜の落ち葉と米ぬかから作成した肥料を埋める方法を言う。
この肥料は、春先の気温が低い時期は熱を発し「温床」となる。
また、微生物の活動も活発になる。
作物の成長を促進するうえ、保水性も高い。
桜の葉が持つ成分や微生物の活動により、病害虫の広がりも抑えられ、いずれたい肥に変化する。
2.遠く、高く
栽培する苗の間隔は遠く離し、株間をあける。
育ち始めたら、高く育つように誘引する。
苗は、発芽後の日が浅い「若苗」を植え、水と栄養がある穴肥に向け、根が強く伸びることを促す。
植物は枝の先端に向かって肥料の成分である「チッ素」が移動する性質を持つ。
トマトの場合、「チッ素」が過剰になると、トマトの底の部分が黒くなる「尻腐れ」が起きることがあるので、その行先として枝をたくさん残す方法としている。
メロンは、南瓜に接ぎ木した苗を使う。
南瓜の持つ低温伸長性を活用し、春先に元気に伸びさせたうえ、南瓜の実も成らせ、根を強くする。
このようにして、植物の持つ「伸びる力」を大きく引き出すようにしている。
3.よもぎの利用
雑草として生える「よもぎ」は多年草。
よもぎは、水分を蓄え、大雨の時に土を流さない利点がある。
また、花から花へ交配をしてくれるマルハナバチが根の間に営巣する草でもある。
ハウスの中では、作物といっしょに、よもぎが元気に育っている。
4.育種
栽培方法に適する品種をつくることを言う。
チャルジョウ農場では、上の3つの栽培方法に適した品種を自ら開発している。
ミニトマトの品種「涙の泉」は、乾燥に強く、みずみずしい実、酸味が強いという特徴を持ち、水が少ない環境での栽培に、大きな力を発揮する品種だ。
小川さんは、この方法を用いれば、耕作放棄地となった畑や、桜の名所にもかかわらずゴミとして処分している「葉っぱ」、精米所に残されている「ぬか」など、未利用な会津の資源を活用し、作物が作れることを実践している。
このノウハウを継承するため、研修生も受け入れ、農業技術の普及にも熱心だ。
ほかにも、会津での農業に適しそうなアイディアを持つ。
トルクメニスタンで手に入れた「ササゲ」は、大豆に次ぐ”たんぱく”を持つと言われる。
遺伝子組み換えでない大豆のタネを手に入れるのに苦労するいま、大豆より背が高く育つ「ササゲ」は、大豆に替わる高たんぱく作物として、会津の耕作放棄地でおおいに生産できる可能性がある。
こうした技術発展をする若者を育成したい気持ちも持っている。
「あいづ朝市」には、季節に応じ、さまざまな作物が出品される。
“えぐみ”を持たないメロンは、糖度も高く、他では手に入らない逸品。
7月下旬から10月下旬頃に販売される。
会津での農業に興味があるあなた!
農業ノウハウの詰まった引き出しから、あなたの欲しい知識を引き出す畑は、飯盛山のふもとにあります。
ぜひ、お出かけして、チャルジョウ農場のブースをのぞいてみてくださいませ。