「食材の味を信じて活かす」
会津若松市で、マフィンを中心に菓子製造を行なっている長樹工房の長谷部亜樹さん。
長谷部さんは、会津大学短期大学部食物栄養学科を卒業後、老人施設で5年間、栄養士として働きながら勉強し、管理栄養士の資格を取得してきた。
「管理栄養士の資格を取得した年には、東日本大震災があった」
「この資格は”人のために”使いたい」
と、強く思うようになった。
その後の病院勤務では、
「栄養素の知識はあるが、そもそも食材ってどうやってつくられているの?」
「食材がつくられる現場のこと、実は何も知らない」
と気づき、次第に興味が食材生産へと移っていった。
行動派の長谷部さんは、農業法人に転職。
農作物を育てることの”やりがい”や野菜の”魅力”に惹かれ、仕事をしていると、
「少しの虫食い、傷で、なぜ市場価値がなくなってしまうの?」
「重労働なのに、なんでこんなに賃金が低いの?」
「野菜って、安すぎない?」
と、やりきれない想いを抱くようにもなった。
そんなある日、勤務していた農業法人が倒産する憂き目に遭う。
「実は、途方に暮れた・・」と長谷部さんは話す。
「価値がないと捨てられるものに、何か価値を付けられないだろうか」
「廃棄される食材を減らし、生産者の収入につなげることはできないだろうか」
と、想いはだんだんとかわってゆく。
あるとき、暮らしていたアパートからの引越し先を探していたら、台所が2つある珍しい物件に巡り合う。
「ここだ!」
「ここならば、私の想いを食品加工で実現できる!」
すぐさま、工房設立へと動いた。
まず、保健所から「菓子製造許可」を得るため、工房づくりをはじめた。
初期費用にあまり多くのリスクを割くのは怖く、自らの手で塗装をしたりして許可取得を乗り切り、晴れて「長樹工房」開業の日を迎えた。
長樹工房の主力商品は、マフィン。
生地は国産小麦、きび砂糖、米油を使用。
牛乳やヨーグルトは地域のものを使用し、地産地消にも貢献したい。
季節によっては、会津の野菜や果物も使う。
ここまで積み重ねてきた経験から、
「食材本来の持つ素材の味を活かし、邪魔になるような味付けはしない」
「生命や自然に対し、人は無力であることを自覚し、謙虚に食材に向き合う」
素朴な味を持つマフィンは、こんな長谷部さんスタイルの食品加工哲学から生まれた。
クッキーの製作では、オリジナルクッキーや異業種のお店とのコラボクッキーも販売している。
「地域のいろいろなお店とのコラボ」
の仕事はとても楽しく、いままでと違う付加価値が生まれることも楽しんでいる。
現在は「道の駅あいづ」、「あいづ朝市」をメインに、対面販売を月に数回行っている。
長谷部さんはこう語る。
「今後は市場では出回りにくい、焼き菓子に限らず傷ついた野菜や果物などを、積極的に活用していきたい」
「80歳まで、自分スタイルで楽しく働く活動をしていきたい」
素材の味を信じ、活かすことを心がけたマフィン。
「あいづ朝市」でどうぞお召し上がりくださいませ。